研究概要 |
初年度に波長1650nm付近で発振する外部共振器型半導体レーザーを製作した.引き続き本年度は,同波長域でフィネス約300を持つ光共振器吸収セルを製作した.光は共振器中に定在波を作り,腹の位置での光強度は入射光強度の約150倍に高められ,飽和効果を観測しやすくなった.さらに,光共振器の共振周波数に半導体レーザーの発振周波数を安定化したまま,周波数掃引できる様にした.この結果,メタン分子の高振動励起状態への遷移で飽和吸収分光に成功した.そのスペクトル線幅は約0.5MHzで,線型吸収分光のドップラー幅290MHzに比べ非常に狭く,ドップラー幅内で重なりあった遷移を分解して観測した.また,シュタルク電場を印加できる光共振器吸収セルを製作し,メタン分子のシュタルク効果を調べた.シュタルクシフトから決定したダイポールモーメントの大きさには,これまでに観測されていないコリオリ準位依存性があり,理論的解析にも成功した. 波長790nm付近で反射率99.97%以上(カタログ値)のミラーを使用して光共振器を製作した.この光共振器中にアセチレン分子を封入し,吸収強度の小さい高振動励起状態への遷移を対象に吸収分光を試みた.光は共振器中を多数回往復するため,実効的に非常に長い吸収長が得られる.実際観測された吸収強度は,同じ長さを持つ通常の吸収セルに比べ約1000倍増大した.これは,フィネス約1400の光共振器が実現されたことを示す.しかし,ミラーの反射率から期待されるフィネスは約10000で大きな差がある.主な原因としてミラー表面の汚れが考えられる.また,光源に用いたチタンサファイアレーザーは周波数安定度が悪く,飽和分光を行うためにはこの点の改善も必要であることが判った.
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