研究概要 |
1994年(平成6年)度に九州中部阿蘇火山周辺において行なった広帯域地震計アレイ観測によって,表面波解析に必要な多くの地震波形が得られた.次年度にデータの解析を進める段階で,いくつかの重要な観測点のデータの刻時精度に,解析に支障をきたす程度の問題があることが判明した.そこで,規模は小さいながらも観測を継続して行ない,それと並行して京都大学火山研究所の定常観測点の波形記録を基に時刻の補正を試みた.これらの作業にかなりの時間を費やさざるを得なかったとは言え本報告書の作成が予定よりも遅れた事に村しお詫びしたい.これらのデータの取得・処理と並行して,表面波位相速度マッピングの解析手法整備に努めた.またウエーブレット解析などの手法を導入し表面波データに応用した.分散の可視化には有用であるが,定量的な位相速度検出には従来の手法と比べて特別な優位性は無いようである.観測を行なった九州中部の阿蘇地域において,レイリー波の位相速度は周期おおよそ10秒から30秒の範囲では比較的安定に約2.6〜2.8km/sと決定された.このばらつきに関しては不均質構造の影響が大きい可能性が高い.一方,地殻の異方性については日光周辺における実体波データの解析をとおして,上部地殻の異方性の高精度の解析を行なった.その成果はすでに「月刊地球」誌上に報告した.また,同期間中にマントルあるいは地殻下部の異方性についても解析しその成果を2偏の論文にまとめて国際科学誌上に発表した.九州中部の観測により活動的火山周辺における構造とダイナミクスに関する重要な知見が得られた.その内の一部は1996年(平成8年)に米国の国際科学誌である「Science」誌上に発表した.
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