研究概要 |
陸上と同様に,多くの海底活断層はリッジ山麓斜面と低平地(海盆)との境界に位置することから,音波探査断面図を用いれば,断層位置が概略特定される。実際には,活動的な断層ほど地震時に発生した乱泥流により覆い隠されてしまうことがあり,海底で活断層露頭を発見し観察するのは容易でなく熟練を要する。海底に埋もれた活断層の位置を特定する指標として,冷湧水による変色域(化学沈殿物,バクテリアマット,シロウリガイ群集など)が有効である。ほかに,新鮮な転石帯・地割れ・地すべり,新しい堆積面を切断する低断層崖,スリップベクトルを示す断層条線などが挙げられる。 北海道南西沖地震の津波波源域北部では,世界で初めて,津波地震発生直後の主震震源域において海底地盤変状の観察記載をおこない,大小の地割れや噴砂痕とともに,海底での移動をほとんど伴わずその場で未固結ないし半固結の堆積層が破砕される現象(震動自破砕と命名)や,斜面上を滑走した後に急崖をジャンプして着地した泥層などが識別された。 KAIKO計画ならびにKAIKO-NANKAI計画で収集された画像データにもとづいて南海トラフ東部の地震テクトニクスを考察した結果,海溝軸を挟んで南海トラフと銭洲海嶺とでは活断層の方向性と変位センスが異なり,西北西-東南東方向の圧縮応力場とほぼ南北方向の圧縮応力場が接している可能性が指摘される。これは,フイリピン海プレートの絶対運動における進行方向が北進していることと合わせて,西南日本弧を含むアムールプレートの絶対運動(東進)のために,両者の相対運動が西北西-東南東方向を示すという説を指示する観察事実といえる。一方,プレート境界として成熟していない日本海東縁では,力学的境界域を挟んでこのような応力場の違いは見いだされていない。
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