研究概要 |
浅間火山天明噴火(1783)噴出物のうち,大規模なプリニアン噴火をした天明軽石について,斑晶中のメルト包有物と石基ガラスについて,その包有関係・産状を観察しマイクロプローブ分析を行った.天明軽石を偏光顕微鏡観察および画像処理した結果,斑晶として斜方輝石,単斜輝石,斜長石,Fe-Ti酸化物が晶出し,それらは融食をうけていることが明らかになった.これらの斑晶中には,2-10ミクロンのメルト包有物があり,その多くは脱ガスしてバブルを生じている.また,母体斑晶と反応しているものもある。偏光顕微鏡観察・画像観察によって,こうした変化をうけていないメルト包有物を120コ以上見つけだし,SとCIをマクイロプローブ分析した.分析には反射電子線像イメージモニターを用いて,分析点を特定した.これらのメルト包有物には,110-390ppmのSと,1400-2200ppmのCIが含まれる.脱ガスした石基ガラスには,40-120ppmのSと,600-1400ppmのCIが含まれる。 一方,微量に含まれるカンラン石中のメルト包有物には,410-2700ppmのSと,1200-1600ppmのCIが含まれる.こうした結果から,天明軽石は、Sが多くCIの少ないマグマとSが少なくCIの多いマグマが混合してつくられたと結論される.また,Sが少なくCIの多いマグマを噴出させた1991雲仙普賢岳噴火の石英安山岩溶岩との比較をした.浅間天明軽石では,雲仙普賢岳の1991溶岩に比べて石基ガラスの発泡の程度が著しく高く,隠微晶質の結晶の発達はきわめて弱く,また,Sを分別する鉱物は生成していない. 天明軽石の総噴出量を0.17Km^3,密度を1.37g/cm^3とすると,最大で6.2×10^<11>Kg,最少で3.2×10^<10>Kgの硫黄を大気圏に放出した.これは,Sigurdsson(1990)に基づくと,北半球の平均気温を最大で-0.3度,最小で-0.1度低下させる効果があったと推定される。
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