研究概要 |
変動帯を特徴づける層状チャートは,海洋プレートの沈み込みにともなって形成された付加体の主要な構成員である.その岩石組織学的研究にもとづいて,堆積および続成段階から付加作用をへて,変動帯を構成するまでの地質現象の一端が解読された.その結果の概略は以下の通りで,付加テクトニクスの考察に重要な示唆を与えるものと考えられる. 初生構成物質と後生構成物質が,偏光顕微鏡観察,エネルギー分散分析,波長分散分析,およびX線粉末回折によって識別された.前者は基本的には堆積時に供給されたもので,放散虫骨格や珪室海面綿骨針,イライトやクロライトなどの粘土鉱物,Fe-Mn鉱物などである.後者は続成過程から付加作用および変成作用において形成されたもので,間隙充填石英やMn-クロライトなどをふくむ.これらが堆積から付加作用をへて日本列島を構成するまでの諸過程は,以下のように岩石組織に記録されていることが明らかになった. 堆積過程の組織:初生構成物質が静かに降下沈積し,底棲動物で乱されていないことから深海形成を示す平行ラミネーション,上下判定に有効なロード・キャスト,瞬間的な水流の動向を示すカット・フィル構造などの堆積構造が記録されており,堆積当時の環境推定に有効な組織が認められた. 続成過程の組織:初生構成物質の周囲に沈殿した間隙充填石英,スタイロライトに代表される圧力溶解を示す縫合組織などが認められ,埋没段階での溶解現象が重要であることを示唆している. 付加過程の組織:おそらく海溝域における崩壊堆積を示唆する破砕組織,地下深所における高圧条件下で起こった泥質物質の割れ目へのインジェクションなどが例外なく認められた. 変成過程の組織:スティルプノメレンやリ-ベッカイトといった各種の変成鉱物で示される. 上昇隆起過程の組織:地下深所から上昇することによる圧力解放を反映したテンション・クラックやそこに形成された石英などの細脈などに,地表に露出するプロセスが記録されている.
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