研究概要 |
この研究では多数の赤潮原因種を含む渦鞭毛藻が形成する休眠性接合子を水質環境指標として捉え,その群集変化から過去の富栄養化の過程を推定しようとする. 上記の目的を遂行するため大村湾と長崎湾から不撹乱の柱状試料を採取し,層相の観察から堆積物の連続性を確認し,さらに^<210>Pb測定によって平均堆積速度を明らかにすることから堆積物の年代を推定した.またパリノモルフ分析によって堆積物から渦鞭毛藻シスト化石を抽出した. 大村湾における過去およそ100年間では渦鞭毛藻シスト群集は上部で赤潮原因種であるPheopolykrikos hartmanniiがやや増加する以外は著しい変化は認められない.この湾では約20年前からはやや富栄養化していることが知られているが,それと渦鞭毛藻シスト群集の変化が水質環境の変化,とくに富栄養化に関連しているか否かの判断を下すことができなかった. 長崎湾南部の調査結果では地形変化(1968年の香焼水道の封鎖)と時を同じくして,渦鞭毛藻シスト群集の優占群が独立栄養種群(Spiniferites + Lingulodinium)から従属栄養種群(Brigantedinium + diplopsalids)へ変化することが明らかになり,それが富栄養化を伴う水質の変化で明瞭に説明することができた. 以上のような調査結果に基づくと,渦鞭毛藻シフトの従属栄養種群(Congruentid group)と独立栄養種群(Gonyaulacoid group)の相対的な変化は水質環境の変化,とくに富栄養化の経過を推察する指標になりうるといえる.しかしそのような群集変化がどの様な栄養塩濃度で生じるのか,定量的な関係を明らかにするまでに至っていない.今後の重要な研究課題の一つである.
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