研究概要 |
鉱物内におけるイオンの拡散とその速度の間にあるはずの規則性を実験的に見い出し、イオン間の拡散速度の違いを説明する為、メリライトの端成分鉱物(ゲーレナイト)中のトレーサー拡散速度を測定した。拡散速度のイオンによる差異は「結晶構造(化学組成,サイト)-イオン半径(電荷)で決まる」とするこれまでの拡散に対する仮説と整合性をもつものであった。 [結果,考察]ゲーレナイトにおける二価陽イオンの拡散とイオン半径の関係は、メリライト中でMサイトを介して拡散すると考えられる比較的大きなイオン(Ca,Sr,Ba)およびT_1サイトの小さなイオン(Ni,Co)とも他方の端成分鉱物であるオケルマナイトのそれとよく似た変化を示していた。 メリライト結晶には、二価の陽イオンが入るためにT_1とMの二つのサイトがある。溶媒がゲーレナイト組成の場合、T_1サイトはAl^<3+>またはSi^<4+>で占められていて、Ni^<2+>,Co^<2+>などがT_1サイトを利用して拡散する為には2:2で置換(例えば,Ni+Si:Al+Al)する必要がありオケルマナイトのそれとは異なる。この拡散機構は主成分についての相互拡散の測定から確かめられており、トレーサー拡散より約二桁小さい。両メリライト中の拡散速度の相関のよく似た関係は小さなイオンがT_1サイトを拡散していることを支持し、他方前述の2:2の拡散機構とは相容れない。これらのことはT_1サイトを拡散するイオンの[トレーサー領域]での拡散が2:2ではなくNi^<2+>:Al^<3+>とSi^<4+>:Al^<3+>の拡散が独立して起きている可能性を示唆している。この場合荷電欠陥の導入が必要で、これらのイオンの活性化エネルギーの増大をもたらした要因であろう。また物質と電荷の収支のために、ある程度拡散が進み濃度が高くなると、二種類の拡散の遅い方に律速された2:2の拡散になると考えられる。
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