平成6年10月から平成7年12月まで、24時間毎に富山において降水を採取し、その化学成分・同位体比を測定し、その変動を観測した。塩化物イオン濃度は5〜8月は2ppm以下、9月以降は20ppm以下であった。塩化物イオン濃度が1ppm以下の時、そのNa/CIイオン比は海水の値(0.56)よりも小さく、夏季には人為起源の塩化物イオンの存在が認められた。非海塩性(nss-)硫酸イオンの濃度は5〜8月の2.5ppm以下に対し、9月以降は5ppmまでと増加が認められた。一方、降水中の硝酸イオンとnss-硫酸イオンの比は5・6月は0.7〜1.2程度であったが12月には0.2〜0.6程度と連続的に低下していく傾向が認められ、nss-硫酸イオン濃度が、5〜8月と9月〜12月の期間で大きく異なることとは対照的であった。降水中の硫酸イオンの硫黄同位体比は、5〜7月は-1〜4%、8〜10月は1〜5‰であった。この同位体比は、海水起源の硫酸イオンの同位体比と非海塩性硫酸イオンの同位体比との荷重平均値であるので、この関係を用いて非海塩性硫酸イオンの同位体比を求めた。その結果、非海塩性硫酸イオンの同位体比は、5月〜7月の上旬は、-1〜3‰であった。従来夏季には大陸起源の硫酸イオンの長距離輸送はないとされていたが、このように高い同位体比は、夏季にも大陸起源の硫酸イオンの長距離輸送があることを示唆する。8月下旬から10月では、硫黄同位体比は0〜3‰とマイナスの値がなくなり、11・12月は0〜7‰と更に値が大きくなって、大陸からの硫酸イオンの寄与が強まっていることが判明した。また、硫黄同位体比の増加と硝酸/nss硫酸イオン比の減少の間には、良い相関が見られ、大陸起源の硫黄イオン(δS=5‰、NO3/nssSO4=0.2)と国内の硫酸イオン(δS=-2‰、NO3/nssSO4=1.5)が色々な割合で混合している状況が明らかになった。
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