研究概要 |
ポリオキシエチレン鎖は水溶液中においてきわめて特異的なコンホメーション挙動を示す。本研究では,ラマン分光法およびフーリエ変換赤外分光法を用いて,種々の濃度領域,特に希薄濃度領域におけるC-C結合およびC-O結合のコンホメーション状態を詳細に調べた。希薄水溶液のラマンスペクトルを測定するために多重反射セルを開発し,従来困難であった溶質モル分率0.005までのラマン測定が可能となった。C-C結合のコンホメーションキ-バンドとして,ラマンスペクトルでは810および855cm^<-1>,赤外スペクトルでは1331および1350cm^<-1>のバンドを用いた。今回は特に短鎖ポリオキシエチレン鎖のコンホメーション挙動を重点的に調べ,次のことが明らかとなった。C-C結合のコンホメーションについては,(1)水の添加に伴い,ゴ-シュポピュレーションが増大する。(2)低濃度領域(溶質モル分率0.02-003)において,ゴ-シュポピュレーションが異常に増大する。(3)ゴ-シュポピュレーションの異常増大は,鎖長が短いほど顕著である。またC-O結合のコンホメーションについては,(1)水の添加に伴い,トランスポピュレーションが増大するが,増大率はC-C結合のゴ-シュ増大に比べはるかに小さい。(2)コンホメーション変化の鎖長依存性はほとんど認められない。これらの結果のうち,特に重要な発見は,低濃度領域において,C-C結合のゴ-シュポピュレーションが最大になることである。このゴ-シュコンホメーションの安定化の要因として,(1)誘電効果,(2)エーテル酸素と水との水素結合,(3)水の構造,(4)オキシエチレン基の両親媒性などが考えられる。理論的な考察を行うために,ポリオキシエチレン鎖のモデル化合物について非経験的分子軌道計算を行った。また,環状ポリオキシエチレン化合物である18-クラウン-6についても水溶液中におけるコンホメーション挙動をラマンおよび赤外分光法により解析した。これらの研究結果を踏まえて,同位体水溶液法によるポリオキシエチレン鎖のコンホメーション解析を行い,予備的な結果を得ることができた。この方法を用いることにより,さらに微細なコンホメーション挙動を解析することが可能となった。
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