研究概要 |
申請者は(E)-スチルベン類のX線構造がエチレン結合の異常な短縮と分子構造の著しい温度依存性を示すことを見いだし、この現象はC-Ph結合の大振幅ねじれ振動に起因する外見上の結果であると考えれば矛盾なく説明できることを報告した.本研究は,この解釈に一層確な証拠を与えるとともに,この現象の一般性を明らかにしようとするものである。 上記の目的を達成するために,(E)-スチルベン骨格がメチレン鎖によって固定された一連の化合物の温度変化X線結晶解析を行なった。そのX線構造は温度変化を示さず,またエチレン結合長は通常の(E)-スチルベンに対して観測されるエチレン結合長よりも0.03-0.05Å長い1.35-1.36Åであった.この結果から、(E)-スチルベンのX線構造に見られた異常はC-Ph結合の大振幅ねじれ振動に由来し,エチレン結合の真の長さは1.35-1.36Åであることが結論できた. つぎに(E)-スチルベンと類似の骨格をもつビベンジル類について温度変化X線結晶解析を行った.この化合物のエタン結合長が異常に短い(1.48-1.517Å)ことが古くから知られている.今回得られたX線構造においては,エタン結合長は温度の低下とともに増大し(240Kで1.506Å,100Kで1.529Å),同時にC-Ph結合のねじれ角は減少している.これより,ビベンジルのX線構造に見られるエタン結合の短縮もC-Ph結合の大振幅ねじれ振動に由来することがわかった。
|