研究概要 |
縮合多環系芳香族炭化水素の特徴を生かした高スピン種を発生,直接観測し,その電子構造,スピン整列に関する情報を得ることを目的とした研究を行った。 2つの分子群について調べた。(1)縮合多環系分子が1電子酸化及び還元され易いことを利用し,ラジカルイオン源を共役分子内に2つ持つ分子を合成した。すなわち,1,3-ジ(9-アンスリル)ベンゼンと1,3-ジ(1-ナフチル)ベンゼンを,前者は五塩化アンチモンで酸化し,後者は金属ナトリウムで還元した。共に,分子内の二つの縮合芳香環部分が各々1電子酸化及び還元されて,ジイオンジラジカルが生成する。極低温において,これらジラジカル種のESRスペクトルを測定したところ,波形より,各々D^'=0.00491,E^'=0;D^'=0.00660,E^'=0cm^<-1>の三重項種であることが分かった。温度変化より,三重項が基底状態であることも分かった。対応する1,4-ジ置換体では,三重項種は観測されない。1,3-置換がジラジカルジイオン種におけるスピン整列に必要であることを示している。今後の高スピン種設計に役立つ知見である。 (2)縮合多環系の特徴を生かした,特異なデヒドロ炭化水素ジラジカル種を設計した。すなわちフェナレニリデンを形式的に二つ縮合した分子と,シクロヘプタテトラエニリデンを二つ縮合した分子について,各々前駆体の合成を試みた。
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