研究概要 |
抗菌性環状ペプチドGramicidin S (GS)の一次構造は同じ配列をもつペンタペプチドが2つ結合し閉環した環状デカペプチドcyclo(-D-Phe-Pro-Val-Orn-Leu-)2である。 最近、我々はOrn残基の側鎖に保護基を持たないペンタペプチド活性エステルの閉環反応によるGSの直接合成を報告した。すなわち、C一端にVal,Orn,Leu,D-Phe,Pro残基を持つ5種類のペンタペプチドスクシンイミドエステル(-ONSu)でただ一つD-Phe-Pro-Val-Orn-Leu-ONSuのみが環状単量体であるsemi-GSと環状二量体であるGSをそれぞれ15%と38%の収率で生成する事また他のアミノ酸配列ではGSを全くせいせいしない事を見いだし報告した。そして、興味あることにこのGSを生成したアミノ酸配列はGSの菌体内での生合成におけるアミノ酸配列と同じであった。 今回ペプチド1,D-Phe-Pro-Val-Orn-Leu-ONSu,の閉環反応に対するPheとVal残基の立体配座の役割を研究するために,部分アミノ酸配列、L-X-Pro-L-Y,L-X-Pro-D-Y,D-X-Pro-D-Y (X=Phe,Y-Val)を含む3種類のペンタペプチド活性エステル2-3を合成し、ピリジン中25℃で24時間閉環反応を行なった。 1.H-D-Phe-Pro-Val-Orn-Leu-ONSu 2.H-Phe-Pro-D-Val-Orn-Leu-ONSu 3.H-Phe-Pro-Val-Orn-Leu-ONSu 4.H-D-Phe-Pro-D-Val-Orn-Leu-ONSu 1E.H-D-Phe-Pro-Val-Orn-Leu-OEt 2E.H-Phe-Pro-D-Val-Orn-Leu-OEt 3E.H-Phe-Pro-Val-Orn-Leu-OEt 4E.H-D-Phe-Pro-D-Val-Orn-Leu-OEt 加えて、ペプチド1-4の閉環様式とコンホ-メーションの相関関係について研究するためにペプチド1-4に相当するエチルエステル1E-4Eのエタノール中のCDスペクトルならびにDMSO-d_6中のNMRスペクトル測定した。 ペプチド4は58%の収率で選択的に[D-Val]-GS(環状単量体)を生成した。一方ペプチド2とペプチド3は様々な生成物を与えた。またエチルエステル1E-4Eのエタノール中のCDスペクトルならびにDMSO中のNMRスペクトルとペプチド1-4の閉環反応の間に良い相関関係を見いだした。今回の実験から、D-Phe-Pro配列によって保持されるN端のα-アミノ基の配置はペプチド1の二量化閉環反応によるGSの形成に必須であり、Val残基はその閉環反応様式に影響を与えることがわかった。
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