研究概要 |
1,2-オキサホスホランはリンと酸素原子を環内に有する5員環化合物であり、1966年ハンズ等により初めて単離された。無色の安定な結晶であるが、吸湿性であり、容易に水と反応して環を開き、相当するホスフィンオキシドになる。 この1,2-オキサホスホランを単離し反応を行うという試みは1990年代になるまでほとんどなされていなかった。そこで光学活性な1,2-オキサホスホランを合成しその反応性を検討した。原料の光学活性な3-ヒドロキシホスホニウム塩をエポキシドから合成し、塩基との反応により光学活性な1,2-オキサホスホランを合成した。 光学活性な1,2-オキサホスホランとアルデヒドとは、ほぼ定量的に相当するホモアリルアルコール類が生成する。ケトン類とは加熱するという条件では、ほとんど反応しないことも明らかとなった。これらの反応によって得られるホモアリルアルコール類は天然にある種々の化合物の中に含まれる構成単位である。そこで天然にあるマクロライドの一種であるレシフェイオライドの合成を行った。1,2-オキサホスホランと末端にカルボン酸エステルを持つ長鎖アルデヒドとの反応で相当するホモアリルアルコールをほぼ定量的に得た。これを定法どおり、加水分解、環化反応をおこない、目的のレシフェイオライドを合成することができた。 オキサホスホランとパラホルムアルデヒドとの反応でこれまでに全く得られなかった7員環アルキリデンアセタールという興味ある化合物が得られた。この反応の応用性はかなり広いと考えられる。 他の複素環化合物の合成を試みた。酸素と同族体である硫黄を一つ環内に含んだ1,2-チアホスホランの合成を相当する3-メルカプトアルキルホスホニウム塩から合成しようと試みたが、非常に不安定であり、加水分解を起こして3-メルカプトプロピルジフェニルホスフィンオキシドに変換することが明らかとなった。 以上のように、リンおよび他のもう一つのヘテロ原子を含む複素環化合物は興味ある反応性を示すことが明かとなった。
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