研究概要 |
ゼオライト細孔中に捕捉された金属錯体には、構造や電子状態の変化、ゼオライト骨格による錯体構造の固定化ないし規制、錯体分子の孤立による分子間相互作用の減少などが予想される。このため、ゼオライト細孔中のスピンクロスオーバー錯体には、特異なスピン転移挙動がみられる可能性がある。本研究では、Y型ゼオライト細孔中にエチレンジアミン、2-(アミノメチル)ピリジン、2,2'-ビピリジン、1,10-フェナントロリンのトリス鉄(II)錯体を合成し、メスバウアー分光法などによりその磁気的性質や構造の特異性を試みた。特に、2-(アミノメチル)ピリジン鉄(II)錯体のスピン平衡と細孔内での錯体構造の歪みとの関係について検討した。 ビピリジンやo-フェナントリロンなどのかさ高い配位子との八面体錯体をY型ゼオライトの細孔中に合成した場合には、メスバウアーノスペクトルから得られる四極分裂などのパラメーターは多結晶の場合とは明らかに異なる値をとった。同様に配位構造をとるが細孔に対して小さいサイズを持つエチレンジアミン錯体などではこのような変化はみとめられなかった。これは、ビピリジンやo-フェナントロリンなどの錯体ではゼオライト細孔による空間的な規制によって錯体構造に歪みが生じたことを示していると考えられる。 2-(アミノメチル)ピリジンの錯体についてみると、メスバウアースペクトルの温度変化や磁化率測定の結果から、多結晶の場合にはみられない特異なスピン平衡挙動を示すことが明らかとなった。ゼオライト空間による立体的な規制が特定の構造の安定化をもたらし、多結晶の場合とは異なるスピンクロスオーバー挙動を示すこととなったとみられる。
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