研究概要 |
平成6年度の研究により、シッフ塩基-オキソバナジウム(IV)(V)錯体間の電子移動反応においては、配向酸素原子をとおした軸方向の分子間相互作用の重要性が見いだされた。そこで今年度は、サリチルアルデヒドの5位置換誘導体を用いてバナジウムの電子状態を制御し、(RR)-chxn(シクロヘキサンジアミン)のかわりに、立体的には小さいen(エチレンジアミン)、および、逆に大きな立体効果の期待できる(RR)-stien(1,2-ジフェニルエタンジアミン)を用いてオキソバナジウム(IV)(V)錯体を合成し、錯体間の電子移動反応をストップトフロー法により速度論的に解析して、ジアミン部分のかさ高さが反応速度におよぼす立体的効果を考察した。その結果、エチレンジアミンやシクロヘキサンジアミンを導入した系に較べて、1,2-ジフェニルエタンジアミンを導入した系の方が、反応速度が遅くなることがわかった。[VO{s al-(RR)-chxn}]のX線構造解析の結果、1,2-ジフェニルエタンジアミンの二つのフェニル基はエクアトリアルに配向していることがわかった。これらのフェニル基の立体的なかさ高さは、アキシアルに配向した場合に比べれば小さいと思われるが、エチレンジアミンやシクロヘキサンジアミンの場合よりも大きく、オキソバナジウム錯体間の相互作用により大きな立体的効果を与えているといえる。 以上の結果から、シッフ塩基-オキソバナジウム(IV)(V)錯体間の電子移動反応においては、オキソバナジウム(V)錯体の配位酸素原子のトランス側からオキソバナジウム(IV)錯体が接近して、一電子移動が起こるというメカニズムが見いだされた。電子移動反応速度の立体選択性は、この反応中間体における配位子間の立体的相互作用の相違により出現することが明らかにされた。
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