本研究の目的は、超音波複屈折法により棒状ミセルの配向緩和時間を直接測定するとともに音場の強度を変えることにより棒状ミセルの安定性に関する新たな知見を得ようとするものである。本年度は、超音波複屈折の周波数依存性(超音波複屈折スペクトロスコピー)を測定できるように光検出装置と光学系を改良し、棒状の分子集合体における超音波複屈折の理論の実験的検証を行うために、α-ヘマタイトゾルとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ラテックスを用いて、超音波複屈折の周波数依存性の測定を行った。その結果、5〜225MHzでの超音波複屈折の測定が可能となり、棒状の分子集合体の超音波複屈折の理論は、岡の理論に粘性流体中で棒状粒子が受けるトルクを組み合わせることによって、書き直す必要があることを指摘した。平行して、棒状ミセルを形成するヘキサデシルジメチルアンモニウムオキサイド(C16DMAO)の合成を行い、濃度を20mMと50mMにして、超音波複屈折の測定を行った。C16DMAOの複屈折は10^<-10>〜10^<-9>となり、相転移点(30℃)に近づくにつれて複屈折が増大した。さらに、複屈折は超音波強度の1/2乗に比例し、超音波強度に比例したα-ヘマタイトゾルやPTFEラテックスとは異なる興味深い挙動を示した。測定音場の強度に対して、棒状ミセルの形状の変化は見られなかった。複屈折の減衰曲線に反映される配向緩和運動は、50mMにおいて、3つの異なる過程が観測され、配向緩和時間は、それぞれ0.03〜0.04秒程度であった。このことは、棒状ミセル同志が複雑に絡まっている状態を示唆している。20mMでは配向緩和過程が単一となり、配向緩和時間は、35℃で0.31秒、50℃で0.24秒となった。このことは、濃度を下げることにより、棒状ミセル同志が複雑に絡まっている状態が和らいだためであると考えられる。
|