研究概要 |
モルデナイト(ゼオライトの一種)中には交換可能なナトリウムイオンが存在する.このイオンを銅イオンでイオン交換することができ,その際,化学量論から予想される量より多量に銅イオンで交換した試料を調製することができる.この化学量論から予想される値より過剰にイオン交換した銅イオン交換モルデナイトを真空中873Kで処理した試料が,300Kで窒素分子を強く物理吸着することを見いだした.室温で強く窒素分子を吸着する物質はほとんど見いだされていないので,この試料の性質は特筆すべきものである.室温で窒素を吸着する特性を有するこの試料は,アンモニア合成触媒や窒素を分離する材料としても有効である可能性があり,それらの点からも興味ある物質である. 本研究では蛍光,XAFS,ESR,IRスペクトル測定および一酸化炭素をプローブ分子として利用することによって,室温で窒素分子を強く物理吸着するサイトの状態を明らかにすることを試みた.その結果,この試料を熱処理することによって,モルデナイト中にCu(I)種が形成されること,しかも,この種が窒素の吸着(室温)における有効なサイトであることを明らかにした.さらに,一酸化炭素分子をプローブ分子として利用した実験により,二種類の一酸化炭素吸着サイトの存在を示した.吸着熱測定のデータもこの結論を支持するデータを与えた.一酸化炭素を吸着する二つのサイトのうち,より低温で一酸化炭素を脱離するサイト,すなわち,一酸化炭素との相互作用が弱いサイトへ窒素が吸着することも明らかにした.以上のことから,300Kにおける銅イオン交換ゼオライトへの窒素分子の強い吸着は,試料を真空熱処理することによって形成されたアモルファスなdimerのCu(I)サイトへ窒素分子が強く吸着されることを明らかにした.水蒸気処理により窒素の吸着特性が影響を受けるのでそのプロセスも検討した.その結果,真空中高温の条件で処理した銅イオン交換モルデナイトは水蒸気処理により,不均一化反応{2Cu(I)⇒Cu(II)+Cu(0)}を起こすことを明らかにした.
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