研究概要 |
簡単な分子構造を持つ強誘電性液晶モデル物質を得るという研究計画にしたがって、末端基を種々のハロゲンや置換基に置換した、直鎖長鎖状化合物の構造と物性、及びこれら長鎖状化合物にキラルな分子を導入した化合物の合成及び物性評価を行った。 はじめに、すでに単結晶構造解析^<1)>が行われた1,16-ヘキサデカンジオールについて、DSC測定、誘電率測定を行い、高温相の存在を認めると共に、この相が分子回転相で、液晶相類似相であることを明らかにした。次いで、すでに本研究室で構造解析を行った炭素数16の各種化合物について、結晶内における分子配列に関する末端基効果に付いて考察した。さらに、奇数炭素数を持つ、113-トリデカンジオールの単結晶構造解析を行った。その結果、液晶のスメクチックA様の分子配列を明らかかにすると共に、1,16-ヘキサデカンジオールが示す強誘電性液晶のスメクチックC様の「く」の字配列と比較・検討した。 以上の経過から、これら直鎖長鎖状化合物がスメクチック様の分子配列をとる事が確認されたので、これらにキラル分子を導入する事によって、強誘電性の発現を試みた。具体的には、(S)-(-)-2-メチルブタノール、(S)-(+)-2-オクタノールおよびL-(+)-乳酸を用いて、炭素数が17〜22の直鎖状カルボン酸とのエステルを合成した。また、部分フッ素化カルボン酸とのエステルの合成も行った。これらの化合物の一部にはDSC測定によって相転移の存在を認めたが、誘電率測定では、強誘電性の発現は認められなかった。しかし、これらの化合物が示す高温相の偏光顕微鏡観察では、一部の化合物に強誘電性液晶類似の組織が認められた。したがって、今後はこれらの試料の分極反転機構についての検討が必要であると考えられる。
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