研究概要 |
溶液試料が流出している注射針に高電圧を印可すると,大気圧下で液体がその先端から噴霧・イオン化するエレクトロスプレー(ES)化の方法がある.我々はこの方法を利用した質量分析法(ES-MS)により,迅速・高感度・簡便性を備えた分析技術を発展させるのが目的である.化学反応,電気化学反応及び光化学反応などの多目的に利用できる反応セルを試作し,それをESのインターフェースを通して質量分析計と結合した.それによって,各反応生成物のオンライン質量分析が可能になり,不安定な反応中間体及び反応一次生成物の捕捉・同定に役立つ技術の開発に成功した. 1.電気化学反応:溶液中で中性の分子はESスペクトルの測定ができない.そのために電気化学反応により事前に中性分子を電解酸化して分子イオンを作る.フェロセンのアセトニトリル溶液をモデルとして,電解酸化によるオンライン質量スペクトルを測定し,支持電解質などの電解条件を調べた.その結果,分子イオンを効率よく得るためには,1mM程度の支持電解質をどうしても必要とする.しかし,共存する支持電解質イオンは,目的の分子イオン信号の感度を大きく低下させることがわかった.この効果について,まだ詳しく解明されていないので現在研究中である. 2.光化学反応:アセトニトリル溶媒中で,RuL_2B^<2+>(L=2, 2'-bipyridine, B=diamines)錯体イオンの光照射を行い,光反応生成物のオンライン質量分析を行った.配位子の光置換反応において,溶液中で2座配位子が単座配位した反応中間体をはじめて捕捉・同定した.また,光酸化反応において,ジアミン配位子が2電子酸化されたモノイミン中間体の存在を確認し,さらに,新しい酸化反応経路を見いだすことができた.このようにオンラインES-MS法が,不安定な反応中間体及び活性種の迅速・高感度な同定手段として非常に有効であることがわかった.
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