研究概要 |
分子進化においては,1つの遺伝子のある塩基(またはアミノ酸)座位に突然変異が起こるとタンパク質の機能を失うが,対応したある座位に再び突然変異が起こると機能が回復する例が報告されている.このような2つの座位間の相互作用を互助的相互作用という.まず,互助的相互作用による分子進化を集団遺伝学的に考察し,この分子進化には2つの座位間の組み換え率が重要な役割を持つことなどを明らかにした.さらに,中間状態にある程度の有害性が存在した方がdouble mutantの集団への平均固定待ち時間が短くなるという一見逆説的に思われる現象が観察されたが,これを数理的解析を用いて説明した. 逆に,中立遺伝子座の遺伝的多様性に対する持続型確率的淘汰遺伝子座の影響に関する研究を行った.最近のDNAレベルの実験集団遺伝学の研究により,自然淘汰に関して中立なDNA塩基座位の集団内多様性に,この塩基座位に連鎖した自然淘汰の働く塩基座位の影響が存在することを示唆するデータが蓄積されつつある.例えば,組み換えが抑制されている領域でDNA多型の減少が見出される例が報告されている.ここでは,持続型確立的自然淘汰に着目し,自然淘汰に関して中立な塩基座位の集団内多様性に対する持続型確率的淘汰の働く塩基座位の影響についての理論的研究を2遺伝子座2対立遺伝子モデルを用い,中立な遺伝子座の遺伝的多様性に対する自然淘汰の強さ,環境の変動率,突然変異率,遺伝子座間の組み換え率,集団の大きさの効率(遺伝的多様性の減少)を明かにした.その効果は自然淘汰の強さ,集団の大きさの増加と共に増大し,また効果を最大にする最適の環境変動率が存在することが分かった.しかし,定量的にはその効果は大きくなく,報告されているデータを説明するには不十分であることも分かった.そのため,中立遺伝子座に存在し得る対立遺伝子数を無限大とした場合の解析を今後行う計画である.
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