研究概要 |
福井県敦賀市中池見湿原において湿地植物の開花フェノロジーを,1994年から2年間、ほぼ毎月調査した.この湿原は日本では極めてまれになった低湿地の一つであり,絶滅に瀕する植物が数多く残っている.開花の見られたこれらの植物すべてについて送粉者の調査を行なった.送粉者として特に顕著であったのはハナアブ類であり,このことはハナバチが卓越する森林生態系と対照的であった.これらのハナアブの多くは、水中または水辺で幼虫期間を過ごすものが主体であった。ハナバチ相に関しては、地中営巣性の種が少なく、枯れ茎などに営巣する借孔営巣性のハナバチが卓越していた。ハナバチの中で最も個体数が多かったのは、ヨシの枯れ茎に営巣するホソチビムカシハナバチという種で、これはこれまで日本の2箇所からしか記録がなかった稀種であった。このように、湿地生態系は独自の送粉共生系を有していることが明らかになった。また、カキツバタやコバギボウシのように,森林性のトラマルハナバチに送粉を託す植物も湿地内には見られ,送粉共生系を維持して行くためには湿原周囲に森林環境が残っていることが必須であることが示唆された. 塩性湿地の植物と昆虫のパートナーシップについて,千葉県小櫃川河口,兵庫県千種川河口,山口県秋穂湾,福岡県有明海沿岸,鹿児島県甑島・奄美大島,沖縄県石垣島・西表島において調査を行なった.塩性植物の中にも,ハママツナやフクド、アツケシソウのように満潮時には海面下にありながら潜葉虫がいるもの,ウラギクのようにハキリバチやハナアブが送粉するものなどが観察された.干潟は内湾に位置する特異な湿地環境であるが、そこでもさまざまなパートナーシップが観察さた。干潟に生息するアナジャコの腹面に着生して生活するマゴコロガイの生態についても新たな知見が加えられた。
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