研究概要 |
1.我々はこれまで侵入が近距離拡散と同時に長距離飛翔によって行なわれる階層的拡散について理論的な研究を行なってきたが,この理論の妥当性を検討するために計算機シミュレーションを用いて理論式の適用限界について検討を加えた.とくに長距離移動距離がある一定の確率分布に従っている場合,上記モデルからえられる伝播速度は近似式となるため,近似を伴わない計算機シミュレーションの結果と比較した.その結果,理論式はシミュレーションと良く一致することが示され階層的拡散モデルの有効性が明らかになった.また,この結果を米国に侵入したHouse Finchのデーターに適用し,侵入速度に及ぼす近距離移動と遠距離移動の寄与を定量的に分析した. 2.前年度に引き続き侵入種の分布域の拡がる過程を確率セルオートマトンモデルを用いて解析し,分布の先端が示すパターンとその進む速度に関する定量的な式を導いた.侵入種の拡がる速度は,従来,拡散方程式を用いて調べられてきたが,現実の生物の生息環境はパッチ状に連なっている場合が多い.パッチ間の移動が確率的に起こると考えると,分布の先端は波打ちながら進んでいく.波を形成することにより,進行速度が,直線的に進む場合と比較して約2倍の速さになることを,まず計算機シミュレーションを用いて明らかにした.また,これを確率微分方程式の枠組みの中で定式化し,解析的に解くことに成功した.この問題は従来数学者の間ではコンタクトプロセスと呼ばれ病気の伝播を記述する基本モデルとして研究されてきているが,その多くが厳密な解析を目指していたため,確率効果が侵入種の伝播速度におよぼす効果を定量的に評価するまでには至っていない.本研究では従来のアプローチとは異なる手法により,侵入生物の分布パターンとその進む速度を直観的に説明することが可能になった.
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