研究概要 |
本年度は,Nicotiana sylvestrisの光化学系1核遺伝子psaEを対象として,おもに,(1)この遺伝子の発現にRNAレベルでのエディティングが関与しているか,(2)もしRNAエディティングが関与しているとすればそれはどのような機能を担っているのか,の二点について研究を進めた。その結果,この遺伝子の発現にはこれまで知られていない極めてユニークな調節機構の関与していることが明らかとなった。まず,上記二点について得られた結論を簡単に述べる。 【1】psaEのmRNAはその5'非翻訳領域の末端にポリ(U)配列をもっていることが、cDNAクローニング,プライマー伸長法,RNase保護実験,等の手法を用いた実験結果より明らかとなったが,このポリ(U)配列はゲノムDNAにはコードされていなかった。従って,psaEは核遺伝子としては極めて特異なRNAエディティングを受けることが明らかになった。 【2】このポリ(U)配列の役割を探るために,この配列を挿入したレポーター遺伝子の発現を形質転換タバコの実験系で調べたところ,予期せぬことに,この配列の挿入によってmRNAの翻訳効率が著しく向上することが分かった。 以上二点の発見は,ともにこれまで知られている分子生物学的の知識では説明できない現象であり,今後,真核細胞でおこなわれている転写や翻訳の分子機構を解明していくうえで極めて重要な手がかりを提供し得るものと思われる。
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