研究概要 |
植物細胞の細胞分裂は細胞板形成によって二つの娘細胞となり、また多くの場合に細胞板は後の伸長軸と垂直方向に形成されるなどの特徴があるが、これらは細胞壁の存在と密接不可分である。そこで、これらの形態的側面を物質面からも明らかにすることを目的に、同調培養細胞の細胞分裂周期における細胞壁多糖類を調べた。 (1)まず、タバコBY-2細胞でアフィディコリン処理によるG1/Sアレストを解除した同調培養では、細胞壁多糖類は細胞周期の各期を通してほぼ一定の割合で増加していた。ペクチン、ヘミセルロース、セルロースの各画分の量も細胞周期を通じて増加していたが、各期での特徴的変化は見いだせなかった。また単糖組成では細胞周期にともなう特徴的な変化はなかった。さまた、培地中に分泌される細胞外多糖類も細胞周期を通してほぼ一定の割合で増加していた。 (2)次に、細胞板形成の時期に焦点を合わせ、微小管重合阻害剤プロピザミド処理を加えM期のアレストを解除して高度に同調させた。この場合にも細胞壁全体の分画、中性糖組成では目立った変化はなかったが、調製した細胞壁をラミナリアーゼで処理すると1〜2時間後に可溶化してくるグルコースの量が増加した。また、細胞壁を24%KOHで抽出し、いわゆるマトリックス多糖類中のβ-1,3-グルカンをグルスペシ-法で定量したところ、やはり同じ時期にピークが観察された。以上は、細胞板形成にあたり細胞板に、β-1,3-グルカンが存在するという報告と対応するものと考えられ、形態学的な知見が生化学的インフォメーションに拡張されたものと評価できる。
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