研究概要 |
光化学系II酸化側の過剰酸化による光ストレスと,シトクロムb-559の分子的性質の変化を解析し次の成果を得た.光化学系II標品中に含まれるシトクロムb-559には酸化還元電位の異なる3つの型(高電位,中電位,低電位型)があり,それぞれの酸化還元電位(Em_7)は+435, +237, +45mVである.ヒドロキシルアミン処理光化学系II標品を光照射し,光化学系IIの過剰光酸化を引き起こすと,それに伴い高電位型のシトクロムb-559が減少し, 新しい電位型(遷移中電位型,Em_7=+350mV)が生じ,この遷移中電位型もやがて減少し中電位型を経て,低電位型になる.高電位型から遷移中電位型への変化はTyr_Zの光破壊に,遷移中電位型の減少はTyr_Dの光破壊に対応する.これらのことは高電位型シトクロムb-559はTyr_Zへ,遷移中電位型はTyr_Dへの電子供与により光化学系IIへの光ストレスを緩和する可能性を示唆するものである. さらに,光化学系II酸化側でのMnの結合が高電位型シトクロムb-559の安定性に寄与することを見いだした.光化学系II膜標品のヒドロキシルアミン処理によりMnクラスターを破壊しても,シトクロムb-559の電位は変化しないが, 同標品になお残存するMnをEDTA処理により除去すると高電位型が中電位型へ変化し,Mnを再添加すると可逆的に中電位型が高電位型に戻る.さらに同標品を,さらにカルボキシル基の化学修飾剤1-Ethy1-3- (3dimethyl-aminopropyl) carbodiimide (EDC)でD1/D2タンパク質上のMn結合部位を修飾するとMn添加による高電位型再回復はみられない.Mn^<2+>の効果は特異的であり,Ca^<2+>,Mg^<2+>,Zn^<2+>には再回復効果はみられなかった.おそらくD1/D2蛋白質上のMnクラスターが壊れていても,Mn結合部位へなにがしかのMnが結合していることが,高電位型の安定性に寄与しているものと考えられる.
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