研究概要 |
本研究は,下垂体前葉のインスリン様成長因子I (IGF-I)の生理的意義を明らかにすることを目的とした.マウス前葉細胞にIGF-Iが存在することを,免疫組織化学的およびin situ hybridizationにより明らかにした.IGF-I産生細胞を免疫組織化学的に検索したところ,成長ホルモン産生細胞であることが判明した.前葉細胞にIGF-IのI型の受容体が存在することを,ヒトIGF-I type I受容体cDNAを用いてin situ hybridizationにより明らかにした.マウス前葉細胞の無血清培養系を用いて,IGF-I,インスリンおよび上皮成長因子(EGF)が前葉細胞の分裂を促進することを明らかにした.無血清培養系では,発情ホルモンは前葉細胞の分裂促進降下を示さないが,インスリンと併せて投与すると分裂を促進することが判明した.このことからインスリンによる細胞分裂調節系と発情ホルモンによる細胞分裂調節系があり,両系の間に「クロストーク」が存在することが示された.IGF-Iは発情ホルモンの分裂促進効果を増強しないことから,IGF-Iとインスリンは異なる作用機構をもつことが推察される.下垂体IGF-I合成は,発情ホルモン投与により高まることを明らかにした.発情ホルモンの増殖作用は,EGF受容体の阻害剤により抑制される.これらの結果は,発情ホルモンによる細胞増殖作用には,IGF-IおよびEGFが関与することを示唆している.IGF-Iが成長ホルモン産生細胞からの成長ホルモン分泌を抑制することを.cell dot immunoblot法により明らかにした.以上の結果より,下垂体前葉のIGF-Iは傍分泌的に作用して,前葉細胞の増殖やホルモン分泌等の生理機能を調節していることが示唆された.下垂体IGF-Iの合成分泌の調節機構は不明であり今後解析をおこなう必要がある.
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