研究概要 |
沖縄県西表島のヤエヤマサソリを実験室内で3年間足かけ3世代にわたり個別継代飼育し,雌性産生単為生殖を確認するとともに,いくつかの表現型(櫛状器の歯数や脱皮の回数など)に見られる特定の個体変異の遺伝性と遺伝様式を追究した.また卵の減数分裂時の核型や極体の形成から消失までの組織学的観察にもとづいて,単為生殖によって遺伝子型の変異の組合せが生じる理由を考察した. 西表島で採集されたヤエヤマサソリの成熟した個体は全て雌で,年間を通じて妊娠中または妊娠間期の卵巣をもっていた.平成6年7月に採集した妊娠雌(第1世代)の出産した1齢若虫(第2世代)を実験室内で個別飼育すると,5回または6回の脱皮を経て約15カ月後の平成7年末に成熟し,他の個体との接触なしにすべての個体が妊娠した.約8カ月の妊娠の後平成8年夏に産まれた若虫(第3世代)を同じく個別飼育し,平成9年3月現在5齢または4齢となっている.組織学的な検討により,これらの雌個体に雌雄同体や無性生殖の兆候はなく,卵巣内で形成され減数分裂を経て成熟した卵が,第2極体と接合することによって核相を回復し,発生を開始するものと結論された. 同じ母虫から産まれた若虫にも,櫛状器の歯数や成熟までの脱皮回数に違いが見られたが,現在足かけ3世代目までの結果からは,これらの差異の遺伝様式を結論するには至っていない.しかし,ある遺伝形質についてヘテロの母親から,減数分裂と極体との接合を経て発生した若虫には,ホモとヘテロの個体が一定の割合で生じると考えられ,西表島のヤエヤマサソリ個体群はいわゆるクローン個体群ではなく,自家受精による個体群と同等の変異を含む個体群であることが推定された.
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