研究概要 |
繁殖様式と遺伝的多様性のあり方について酵素多型を用いて検討した結果をまとめると以下の通りとなる. 1.栄養繁殖のみによる種:オオカナダモとコカナダモを調べた結果,集団内,集団間とも遺伝的変異はない.同一クローンが切り藻によって各地に分布を広げていることが裏付けられた. 2.栄養繁殖を種とするが有性繁殖も行なう種:クロモの場合は,雌雄異株であることと2倍体と3倍体の系統が存在することから,有性繁殖は特定の場所でしか起こらない.したがって集団内での変異はなく同一クローンと見なされる場合が多かった.しかし,集団間で比較すると少なくとも27タイプの多型が認められ,稀に起こる有性繁殖によって新たな変異型が生じていることが判明した. コウキクサは,開花が稀でほとんど栄養繁殖で殖えている.全国各地からの材料を検討したところ,酵素多型では5タイプに整理することができた.それ以外の変異が現われなかったことは,栄養繁殖の卓越を示唆している。 3.栄養繁殖と有性生殖を行なう種:自殖をするガマよりも他殖をするヒメガマのほうが多型に富むことが判明した.また実生集団における遺伝的変異の幅が親植物に見られる変異よりも大きいことがヒメガマで判明した.これは淘汰の存在を示すのか,あるいは創始者効果の影響なのか,今後の興味深い課題である. 4.有性繁殖を主とする種:ヒシ属では5酵素によって20タイプの遺伝子型が確認できた.有性繁殖が多様性を生み出しているが,形態的変異の多様性に比べれば酵素レベルでの変異は予想外に小さく,集団遺伝学的な検討もこの事実を支持した。調査した酵素の種類が限られたことに因るのか,ヒシ属の特殊性であるかは今後の検討に待ちたい.
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