研究概要 |
霊長類は、大脳皮質運動野手指領域の発達とともに、五指をそれぞれ独立して動かせるようになった。本研究では、指から大脳皮質への感覚性情報が手指運動巧緻性と関連するものと考え以下の実験を行なった。 1 手指皮膚刺激による手指筋誘発筋電図のE2成分の神経経路の解析 刺激強度を、感覚閾値の3倍で各指皮膚刺激を行なう事により、3つの興奮性成分(E1,E2,E3)より構成される誘発筋電図が記録された。このうち、E1成分は脊髄反射であることがGarnett('80)により報告されている。そこでE2成分(潜時75msec)が大脳皮質運動野を経由することを以下の実験で明かにした。運動野へ磁気刺激を与えmotor evoked potential(MEP,潜時19msec)を手指筋から記録した。MEPがE2電位とほぼ同時になるように刺激すると、筋電図に促通がみられた。しかし、皮質への電気刺激では、MEPの潜時は磁気刺激より2msec速いが皮膚刺激との組合せで促通が見られず、磁気と皮膚刺激による促通は皮質レベルで起きている事が推察された。即ち、手指皮膚刺激による誘発筋電図のE2成分は大脳皮質運動野を経由していることが明かになった。 2 E3成分の神経経路の解析:MRI撮影により、頭頂部に萎縮がみられたヒトで、手指筋誘発筋電図を調べたところ、E1,E2成分は誘発されたが、E3成分が消失していた。すなわち、E3成分は、E2とは異なった大脳皮質部位が関与していることが明かになった。 3 E2とE3成分の振幅比を指毎に比較した。親指と第四指では後者の成分の方が、他の指では前者のほうが優位であった。上記2とを考え合わせると、指により皮質の関与の仕方が異なる可能性が示唆された。 5 今後、E2とE3成分がどの様な指運動と機能的に対応しているかを明かにしたい。
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