研究概要 |
微分方程式の解が解析的に得られない場合,数値的なアプローチが必要になるが,線型の場合のLaxの同等定理のような数値解の解析解への収束性を保証する普遍的な定理が非線型の場合には存在せず,数値解の信頼性の検証は専ら研究者の物理的,化学的な直感と実験結果との定性的,定量的な比較等に依存してきた.しかしながら,境界条件や他の付加条件を計算空間の中で完全に達成して結果を得ることはほとんど不可能であり,数値解のもつ数学的な構造を基礎的に解任することが必要不可欠となっている.本研究では,「数値解を求める上で構成される系が非線型離散力学系である」,という点に着目し,比較的簡単な非線型微分方程式について,その非線型的な挙動を中心多様体理論や分岐理論といった数学的手法とコンピュータを用いた数値実験で解析し,離散化した場合に現れる元の連続微分方程式の解としては決して存在しない解(幻影解)の性質を明らかにした.また,数値解を求める上で実際に利用されている離散化手法(数値スキーム)のもつ性質を明らかにすることによって得られた数値解が真の解に相当するものであるか,幻影解に属するものであるかの判断の下せるような方法論の提案を行った.すなわち,離散解から再構築されたアトラクタの次元を計算することにより,離散化パラメータによる変化を追跡することによって,一見同じように見える解も真の解とは異なる部分を有すること見出せる可能性があることが示された.さらに,現実の流体現象について,数値シミュレーションで得られた結果に対して上記の方法論を適用し,その離散化パラメータ依存性を検証するとともに,可視化の結果や従来の統計的な方法論では困難であると考えられる計算結果についてその物理的性質を明らかにする上で,数理的な手法を応用して解析することが有効であることを示した.
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