研究概要 |
X線応力測定法は結晶格子のひずみから応力を算出する方法であり,得られる値は実応力である.しかし現在X線応力測定法はsin^2ψ法により行われており,複数のX線入射角での回折角を逐次測定している。従って動的負荷状況下での応力測定は全く行われていないのが現実である.本研究は動的負荷状況下の実応力のその場観察を実現することを目的とし,単一入射法というX線応力測定法と位置敏感型検出器の組み合わせにより問題点の解消を図った.単一入射法は一つのX線入射角で回折面法線法角ψが異なる2つの回折角を測定し応力を算出する方法であり,動的負荷状況下の実応力測定には最適な方法である.ただし,動的負荷状況下に適用するには2つの回折強度曲線を同時に計数する必要があり,2個の位置敏感検出器の使用と同時計数するための検出器接続法を開発することが最初の検討点であった.本研究では当初検出器としてX線域リニアイメージセンサを予定し,種々の検出器が装着可能な汎用X線応力測定装置を開発し検出器の特性も検討した.その結果,リニアイメ-キセンサでは同時計数するための方法が困難であり,位置検出型比例計数管PSPCを直列接続することで回折強度曲線の同時計数の問題点を解決した. 次に動的X線応力測定を具現化する目的で,回転曲げ疲労試験中のX線応力測定を計画した.その第一段階としてまず単一入射法による応力測定装置を開発し,荷重計を装着した片持ち回転曲げ疲労試験機を用いて疲労繰返数増加に伴う最大負荷応力時の実応力変化の観察に成功した.その結果,き裂発生前の実応力は振幅に関係なく漸減し,またき裂発生後の実応力はき裂面での応力開放により大きく減少し破断に至るという新たな知見を得た.本研究の成果はX線応力測定の新たな適用分野の拡大を示唆し,今後の材料強度研究に大きく貢献するものと考える.
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