研究概要 |
老齢化社会を目前にして,人工臓器をはじめとした人体に関わるセンサ・アクチュエータの開発に対する要求は大きい.本研究は人に優しいセンサ・アクチュエータをターゲットとして,その機能化について検討したものである。 高分子材料は変形させることが容易であり,この点で人に優しい物質と言うことができる.中でも高分子ゲルは極めてしなやかな物質である.そこでポリビニルアルコールに着目し,このヒドロゲルについて検討した.凍結解凍を繰り返して得たヒドロゲルに希薄電解質水溶液を含浸させた.この状態で含浸体を変形させると電気抵抗が変化した.これはヒドロゲルの変形により電解質水溶液の経路が狭められる結果であり,人体の呼吸の際の腹部の変形を感知することができる.変形量が大きい人体局部のセンサに適用できることがわかった.含浸させた電解質水溶液は室温で30分放置してもその蒸発量は極めて少ない.しかしより蒸発量を少なくすることができれば適用範囲はさらに広がる.そこで,封孔を目的としてヒドロゲルにエキシマレーザ光を照射した.しかしレーザー照射によりゲルの除去が進行してしまい封孔を実現することはできなかった.そこで,本研究の本題からはそれるが,除去速度の小さいセラミックスにも同様の試みを行った.その結果アルミナで封孔を実現することができた.これは本研究を通じて得られた有益な成果である. 凍結解凍によって得られるヒドロゲルは柔軟性に富み,この種の物質としては大きい引張強さを有することから、アクチュエータへの適用の可能性を検討した.従来からヒドロゲルによるアクチュエータは報告されているが,いずれも電解質水溶液中しか作用させることができない.そこで,電解質中でなくても作用できるアクチュエータを求めて,電極内蔵ポリアクリル酸-ポリビニルアルコールから成るヒドロゲルを凍結解凍により合成した.電極には白金細線を使用した.このヒドロゲルの含水率は90%を越えていた.これを0.02NのNaOH水溶液に浸し直流電圧を印加すると屈曲した.この溶液中で20Vの電圧を印加すると2分程度で4本のゲルはその内側に置かれた物体を把持した.この状態で空中に出しても把持は持続した.このことより新しいアクチュエータの可能性を示唆できたものと考える.
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