研究概要 |
本研究計画に基づき行った研究により、以下の新たな知見を明らかにした。 1.MBE法により(lll)Si、(lll)Gd3Ga5Ol2(GGG)、および(001)雲母単結晶基板上にフタロシアニンCo薄膜成長を試み、基板温度10℃で(100)面の強い配向膜を作製することができた。特に雲母上では、AFMを用いた膜表面観察により約0.6nm周期の縞状分子配列が確認された。これは、フタロシアニンCo(100)面内のベンゼン環配列に対応することを明らかにした。また、量子細線形成に有望なステアリン酸Co,Zn,Cu薄膜のKCl(100)、Si(lll)上へのMBE法によるエピタキシャル成長を試み、KCl上には、室温以下で量子細線の形成に最適な(110)エピタキシャル膜を得ることが出来た。しかし、X先光電子分光による組成分析、およびFTIR-ATRによる結合モードの解析の結果、膜中の金属イオン濃度は理想分子組成の10%程度に留まり、その値は成膜パラメータにあまり依存しないことが明らかになった。 2.真空中(10-2 Torr)でのフタロシアニンCo薄膜へのエキシマランプ光(波長170nm)の照射前後の物性変化を調べた。その結果、膜のX線回折ピークは光照射により完全に消失すること、また、フタロシアニン特有のπ-π*電子遷移による600〜700nmおよび300nm付近の光吸収ピークは、光照射時間の増加と共に減少し、Co酸化物の光吸収スペクトルに近づくことを初めて見いだした。また、ラザフォード後方散乱および光電子分光法による組成、結合状態の分析の結果、光照射後の基板上生成物はCo酸化物であり、十分な光照射により有機成分は完全に分解、除去されること、およびC-N結合がC=C結合に比べ相対的に早く切断、除去され、最終的には予想どおりCo-Oが基板上に残留することを明らかにした。 未だ、微細構造の観察には成功していないが、以上の結果は、本研究の提案する手法を用いて量子ドット、細線の形成の可能性のあることを示唆するものである。
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