研究概要 |
最終年度は、4チャネルの受波子と単一の送波子で構成されるトランスデューサアレイを使って、移動する標的の速度ベクトルを推定するための空中超音波実験を行った。 各チャネルで観測されたデータを聴覚末梢系の周波数分析機構を模擬した定Qフィルタ群に入力する。音入力の特定の位相に同期して発火する神経群を模擬した位相検出器を各フィルタの出力に設置し、各フィルタの中心周波数に応じた周期で特定の位相ごとに順次出力されるパルスの頻度を調べる。パルス出力頻度が最大となる時刻によって標的までの往復伝搬時間すなわち標的までの距離を推定し、この最大出力頻度を生じせしめる位相の値から標的との相対速度を推定する。この方法が標的の移動速度に関して不偏な距離推定法であることは前年度に数値実験によって実証済みである。 まず受波子2個の組合せで観測されるエコーに対してJeffersの両耳聴モデルを適用して受波子正中面内における標的方位を推定し、各受波子で推定される伝搬遅延時間より標的距離を最尤推定した。距離と方位の推定誤差分散の比はCramer-Rao下界の比から計算できる。送波子と受波子の間隔を70[mm]とし、寸法が25[mm]×30[mm]の標的を座標(1000[mm],0[mm])の位置を通過するように移動させて推定された標的位置の変化をプロットした結果、距離と方位の推定誤差分散の比は上で求めた値に一致した。また外界からの雑音を遮断するように測定系を吸音材で囲い,静止標的に対して実験を行った結果、距離推定の誤差分散は信号の帯域幅で決まる値にほぼ一致し、満足する結果が得られた。 速度ベクトルに関しては定Qフィルタ群の最大パルス出力頻度に対応する位相から最尤法によって送波子-受波子の視線に沿った速度成分を推定し、これらの差より方位角速度成分を推定する。空中超音波実験では視線速度成分に関しては満足できる推定結果が得られたが、角速度成分の推定誤差分散が大きく、今後引き続き、差動ドップラーに対する速度推定アルゴリズムの改良が必要である. 以上の研究内容の一部は電気学会論文誌E部門誌1996年5月号に発表予定である.
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