研究概要 |
本研究の目的は,車載用シートに長時間座ったときの腰部の筋の凝り,すなわち一過性の腰痛を起こしたときに生じる筋硬度変化を生体機械インピーダンスの周波数特性から求めた粘弾性係数によって測定し,筋疲労を定性・定量化することである。また,同時に筋の凝りの生理指標として,筋疲労時のその中心周波数が低下すると言われる筋電図の測定や,シート表面に長時間皮膚が接触していることによる,皮膚表面の鬱血による血流変化を測定して,シートに長時間座ったときの不良姿勢からくる筋緊張や筋疲労との関係を明らかにすることである。 平成6年度は(1)筋の凝りを生じる部位の特定と,(2)血流変化の測定,平成7年度は(3)筋の粘性係数と弾性係数を算出,(4)筋電図の測定を行い,シートに長時間座ったときの不良姿勢からくる筋緊張や筋疲労との関係を明らかにした。これまでに得られた知見をまとめると,(1)故意に座り心地を悪くしたシートに,被験者を長時間着座させ,腰部の生体機械インピーダンスを測定したところ,粘弾性係数が大きく変化する部位は,第3〜5腰椎両側数cmを中心に分布し,(2)長時間の着座中に,腰部の皮膚あるいは筋肉がシートによって束縛され,皮膚表面の血液循環が悪くなって鬱血した状態になるので,わずかながら血流量の増加が見られた。(3)機械インピーダンスの周波数特性から求めた粘性係数と弾性係数は腰部の筋疲労が進むに連れ,いずれも増加し,(4)積分筋電図は筋疲労とともに増加し,中心周波数は低下することがわかった。 以上の結果をふまえ,粘弾性係数と筋電図のデータをもとに主成分分析を行い,筋疲労の主観度に対応した,「客観的筋疲労度」を定義した。新しい指標を用いて,標準シートと不良シートに長時間座ったときの疲労感を比較したが,良好な対応関係が得られた。
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