研究概要 |
月桃繊維は,煮熱条件より叩解を入念に行わない場合,抄紙に個別差がかなり大きくなる。170ミクロンと50ミクロンの耐折強度は,それぞれ平均5,340,880となったが,170ミクロンのケースでは最小値2,460,最大値13,900で5倍の開きが生じた。次に,南大東島産月桃の精油を用いた防虫・抗菌力は,ケナガコナダニ(100匹)を対象とする実験として,ろ紙に月桃精油を含浸させ,ろ紙の中にケナガコナダニを入れ,室温,湿度75%に24時間放置した。その結果は濃度4%で死亡率100%,2%で95%となった。なお対照ろ紙(0%濃度)では3%の死亡率であった。また抗菌力についてはアルタナリア菌(alternaria)に対し抗菌活性++(++++を最大とする)で一応の抗菌性を示した。接着性の実験は,紙同志の接着力と紙と木との接着力について引張試験機で剥離の抵抗性を調べた。でんぷん系接着材を用いた場合,80μmの紙同志の接着力は0.28kg/15mmで紙と木と接着力は0.45kg/15mmと約2倍であった。また,紙厚を変えた場合,紙同志の接着力にバラツキが見られるが,紙と木の接着力は比較的安定した値が得られた。月桃紙を壁紙として貼る際には下地材料の違いに因って接着強度が決まると考えられ,紙同志と紙と木との接着強度が異なることから,実際に使用する場合,紙の重ね継ぎは,強度面では,不利になるとの結果が得られた。自然曝露環境下における変質については,-100g/m^2の試料の色差が大きく,他の2試料についてはほとんど差異がみられなかったが厳密には70g/m^2の試料が50g/m^2の使用よりも色差変動が小さい。この2試料における色差はいずれも曝露期間中5以下で安定しているが,100g/m^2の試料は各方位とも25と高くなった。変褪色劣化の尺度として色差値12を境として別の色系統になるが,100g/m^2の月桃紙は室内条件によっては,自然光のあたる場所とそれ以外での部分では色ムラが生じる事になる。70g/m^2の場合には色差が5以内であり,この範囲では色差値は感知し得るほどに異なるという尺度から,月桃紙建材の場合紙厚を考慮する必要があると言える。
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