研究概要 |
破壊靱性に及ぼす温度効果や異種原子添加効果の原因を究明するため,転位や侵入型不純物原子などの易動性結晶欠陥の挙動に注目し,これら欠陥とクラックの相互作用について解析・計算するとともに実験によって追究した.まず,転位の場合には,応力集中を緩和する遮蔽型転位と促進する反遮蔽型転位とがあり,クラック先端から生成する転位は前者,内部転位源から生じクラックに近づく転位は後者に対応し,互いの活動の割合が破壊靱性を左右する.NaCl結晶を想定した転位挙動の大規模計算の結果,77Kからの昇温とともにまず内部転位源からの反遮蔽転位が活動して靱性が緩やかに低下し,450K以上になるとクラック先端からの熱活性化放出した遮蔽転位の活動によって靱性値の上昇することを示し,実験結果とほぼ同様の傾向を得た.しかし,細部においては一致しないところがあり,クラック鈍化と転位組織の効果に着目して光弾性法を用いた定量的観察を行った所,クラック鈍化効果は遮蔽効果の約1/3程度の靱性上昇への寄与があること,転位組織は安定構造をとる傾向があって過剰転位のみがクラック場の応力に影響することなどを明らかにした.また,クラックと侵入型不純物原子との相互作用の場合にも遮蔽型と反遮蔽型があり,それぞれクラック先端の後方・前方にある侵入型原子が前者・後者を誘起するため,易動性侵入型不純物の挙動について大規模計算を行った結果,不純物の前方集積はクラックを介した不純物原子同士の相互作用や不純物の正方歪みによって促進されることを示し,易動性侵入型不純物によって普遍的に脆化の起こることを提起した.
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