研究概要 |
溶射粒子の平面基材上での偏平挙動支配因子の解明を目的とし、Niを含む種々の金属材料溶射粒子の基材温度の変化に伴う粒子偏平挙動の変化を系統的に調査した。その結果、Cr,Cu,NiおよびMoには基材温度の上昇に伴い粒子偏平形態が、ある温度を境にスプラッシュ状から円板状へと急激に遷移する特徴的な変化の様相が認められた。このような偏平形態の遷移する基材温度を偏平形態遷移温度と定義し、偏平形態遷移温度が粒子材質により異なることを示した。一方、AlおよびTiには、観察温度範囲ではスプラッシュ発生は認められず、偏平形態遷移も認められなかった。 各粒子の潜熱および粒子裏面組織の比較より、スプラッシュ発生は、粒子の基材衝突直後の初期凝固に強く依存することがわかった。粒子偏平凝固簡易モデルを提案し、粒子偏平形態遷移現象について考察した結果、初期急速凝固と表面張力との関係で、スプラッシュ発生の難易の傾向が説明されたこれより、未知の粉末に対しても、初期凝固特性と表面張力との関係から、基材上での偏平挙動の類推が可能となった。新たに数種の金属材料について偏平形態を観察した結果、上述の粒子表面張力と初期凝固時間推算値との関係が室温基材上でのスプラッシュ発生傾向の推定を可能とするとの結論を支持する結果となった。 また、スプラッシュ状偏平においては、スプラッシュは基材上を流動するよりは、むしろ初期凝固部を起点に飛散する形で形成されるとの実験事実から、この場合の粒子偏平に対し、粒子/基材間の動的ぬれ性は主影響因子とは考え難いこと、および粒子偏平に対するMadejskiモデルは、ディスク状偏平には有効であるが、スプラッシュ状偏平には新たなモデルの構築が必要であることを示した。 さらに、プラズマ溶射に加え、高速ガスフレーム溶射にも着目し、両プロセスでの粒子偏平挙動の差違を通じ、偏平に対する粒子温度,速度因子の影響の解明を試みた結果、高速フレーム溶射粒子においても基材温度の上昇に伴う遷移挙動が観察されたことから、基材温度は粒子速度以上に粒子偏平形態、ひいては皮膜の基材への密着性を支配する影響因子であり、その管理は極めて重要であること従って、従来経験的に知られている、いわゆる基材予熱の物理的な意味は、粒子偏平形態の遷移に対応すること等の諸点を明らかにした。
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