研究概要 |
本研究は,酸性降水の土壌による中和機能に関して,土壌中の気・液・固相の3相系における水素イオンの反応と物質移動によって解析できるとし,実験的検討に基づいた解析を行うことを目的とした。土壌の中和能によって河川水が弱アルカリ性に維持されているが,これは土壌の化学的作用のみでは説明出来ず,土壌中の生態系の影響が大きいことを既に,本研究申請者等によって明らかにしている。すなわち,土壌の化学的な側面ばかりでなく,生態学的な寄与を考慮し,酸性降下物による北陸地方の環境の酸性化の将来予測を試みた。 土壌の中和反応に関して液相中の金属イオン濃度が大きく影響することが判った。特に日本海側の冬季に季節風とともに降水中に多量の海塩由来のアルカリ金属イオンが含まれる。これらが,土壌による降水の中和反応を妨害することが示唆された。土壌の中和能は酸性降水によって劣化するが,溶出した交換性金属イオンが補われることによって,土壌の中和能が回復することがわかった。ただし、この際人為的に塩化カルシウムなどの薬剤を散布するだけでは,先述の液相中の金属イオン濃度を高めてしまい,土壌の中和能を阻害することになるので,注意を要する。土壌気相中の二酸化炭素ガスは,中和反応によるpH上昇を促進するが,カラム実験でもそのことが確かめられた。しかしながら,土壌気相中の二酸化炭素ガスは土壌の劣化を速める現象も併せて見られた。土壌中和能の寿命を見積もる上で,土壌気相中の二酸化炭素ガスの土壌劣化の促進効果は見過ごせない現象であろう。以上のように,土壌の中和能は土壌中の気・液・固相の3相系で理解する必要があることを示した。
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