研究概要 |
本研究では,光電導電性高分子であるポリシランの電気電導を担っている分子軌道である,ポリシランの最高被占軌道および最低空軌道の電子構造を実験的に知り,電導性の高いポリシランの合成指針となる情報を提供することを目的とする。この目的のため,ポリシランのラジカルカチオンおよびラジカルアニオンを低温マトリックス中に生成させ,その不対電子が与えるESRスペクトルおよび電子スペクトルを解析した。ラジカルカチオンあるいはアニオンの不対電子は親分子の最高被占軌道あるいは最低空軌道にあるから,ラジカルカチオンあるいはアニオンのスペクトル解析により,最高被占軌道あるいは最低空軌道の電子構造が決定できる。その結果以下の事実が判明した。 ラジカルアニオンの不対電子はこれまで考えられていたようなSi原子のsp混成原子軌道から構成される軌道ではなく,Si原子のp軌道からなる疑似π軌道をつくって安定化している。またこの疑似π軌道は主鎖全体には広がっておらず,Si原子5〜6個上に局在化している。ラジカルカチオンの不対電子も同様に,-Si-S-主鎖全体には広がっておらず,Si原子5〜6個上に局在化している。 このように中性高分子の電子伝導に関与する最低空軌道および最高被占軌道内で不対電子の局在化が生じるのは,σ共役による安定化の程度が低く,価電子帯および伝導帯のバンド幅が狭いことによるものである。電子の局在化が生じれば伝導機構は熱エネルギーによるホッピングとなるが,電気伝導の実験結果もホッピング機構を支持している。
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