含窒素複素環化合物に有用な官能性炭素置換基を高効率的に導入する手法の開発は、様々な生理・薬理活性を有する複素環化合物あるいは医薬品を合成するためには大変重要な課題である。2位に電子求引性基を有する電子不足アリルスズと塩化アシルで活性化された種々の含窒素複素環化合物との反応を調査し、有用な官能性炭素置換基であるマイケルアクセプターを含窒素複素環に高選択的に導入する手法の開発した。 4位にアシル基を有するピリジン類と電子不足アリルスズの反応が優先的に1、4-付加で進行し、多官能性4、4-ジ置換1、4-ジヒドロピリジン類が選択的に得られ、通常のアリルスズとの反応とは逆の位置選択性を示すことを明らかにした。一方、4-シアノピリジンとの反応では、1、4-付加選択性は認められないこと、3位に電子求引性基を有するピリジン類と電子不足アリルスズの反応では、明確な位置選択性はないこと、2、5-ジメトキシカルボニルピリジンとの反応においても、明確な位置選択性がないことを明らかにした。 電子不足アリルスズが4-アシルピリジン類に対して特異的に示す顕著な1-4-付加選択性の要因を探るために、半経験的分子軌道法を用いて種々のアリルスズ反応剤と4-置換ピリジニウムイオンの分子計算を行い、それらの電子密度およびフロンティア分子軌道を考察した。その結果、従来用いられてきたハード・ソフト酸塩基原理では上の選択性を説明することができず、反応中に生成する電子不足なカーボカチオン中間体と4位のアシル基の安定化相互作用が大きな役割を果していることが示唆された。 さらに、本反応をイソキノリン及びβ-カルボリン系に対して適用し、マイケルアクセピタ-を含窒素複素環に簡便に導入する新手法及び多環式α-メチレン-γ-ラクタム類の新合成法を開発した。
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