研究概要 |
研究代表者らは,原料として羊毛を主に使って,界面活性剤の存在下にて還元反応によりケラチンを可溶化することができた.このケラチン水溶液の主な性質は次のようである. 1)システイン残基が全アミノ酸残基の8-10%を占める. 2)ケラチン分子量は40000-60000を主成分とし,等電点は約6である. 3)水溶液は室温で長期間,腐敗することなく透明安定である. 4)酸化されて高重合度のタンパク材料に変換する. 本研究課題は上記(4)に関わるが,およそ次の点が明らかとなった. あ)キャスト法で調製した膜は引っ張り強度など力学的性質に,他のタンパク膜に比べて,優れていた. い)ケラチン膜は生分解性を示したが,コラーゲン膜よりは約10-20分の1の分解速度であり,また,トリプシンなどの蛋白分解酵素に対してもかなりの耐性を示した. う)走査電子顕微鏡写真によりミクロな繊維性の構造が見ることができたのは特筆される.更に,膜形成を塩(NaCl,CaCl_2など)濃度とpHの加減をしながら調査したが,現在までに,コラーゲンにおいて報告されたような高度な組織形態を観察していない.この原因として a)高システイン濃度によるS-S結合による架橋が実験条件では無作為に進み,高度な組織を形成しながら重合しにくいこと, b)原料のケラチンが複数の蛋白質からなる混成体であり,調製法によりその組成も微妙に変化すること などが考えられる.よって,現在,ケラチンの精製を行い,ケラチンからミクロ繊維の形成を条件を変えながら行っている.
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