研究概要 |
イネ科穀類の胚乳デンプン-アミロース合成は,Wx遺伝子にコードされるデンプン粒結合型酵素タンパク(Wxタンパク質)がコントロールしている.A,B,Dゲノムからなる6倍体コムギでは,同祖的な3つのWx遺伝子が7AS,4AL,7DSに座乗し,Bゲノムに由来する4ALのWx-B1遺伝子が最も高い合成能力をもつ.Wx遺伝子の座乗染色体量を胚乳レベルで0から6に変化させたとき,アミロース含量がどう変異するかを'Chinese Spring'(以下CS)の異数体を用いて調べた(実験1).また,CSの3つのWx座染色体それぞれをnull alleleをもつ品種の相同染色体で置換したときの影響をみた(実験2). 実験1ではナリテトラソミック,モノソミックおよびテトラソミック系統を対象とした.3環境で栽培し収穫した種子のアミロース含量の平均をCSからの偏差でみると(Fig.1),染色体の完全な欠失による効果は4Aで最大となり,CSの25%に比べ3%以上低下した.Wx-B1遺伝子の座乗する染色体断片を欠くデリーション系統では-2.1%だったことから,ナリソミック4Aの効果はWx-B1遺伝子の欠落に加え他の要因も関与すると推察される.ナリソミック7A,7Dでもそれぞれ1.5,1.3%有意に低下し,Wx-A1,Wx-D1遺伝子ともに効果は小さいもののアミロース合成を制御していることが判る.染色体量が正倍数体の1/3に減少したモノソミック状態では,4Aのみに-1.7%の効果がみられ,7A,7D染色体の減少はアミロース含量に明確な変異を生まなかった.一方,染色体量が2倍になったテトラソミックではいずれの染色体についてもアミロース含量は増加しなかった。 実験2では,CSを染色体受容親にWx-A1,Wx-B1座のnull alleleを'関東107号'から,Wx-D1のそれを'Bai Huo'から導入した品種間染色体置換系統を用いた.遺伝背景の影響をみるためにそれぞれの置換系統で独立に2系統育成した.3環境で栽培したときの(CS(BH7D)については2環境)アミロース含量を調べた結果(Table1),どの置換系統もそれら2系統間に差異はなく,置換された染色体の効果を評価できた.Wx-B1遺伝子が発現しないCS(KT4A)でアミロース含量が2%近く低下し,実験1のデリーション系統に近い値をとった.CS(KT7A)とCS(BH7D)でもそれぞれのWx遺伝子産物が生産されず,1%程度アミロース含量が低下した.
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