研究概要 |
根粒菌の増殖に対する宿主植物の防御機構におけるポリアミンの働きについて研究を行い、その結果、次のような新しい知見が得られた。 1)ダイズ(Glycine max L.)の根粒内で,バクテロイドの増殖が停止する時期に,プトレシンとスペルミジン(Spd)が1〜2μmole/gf.w.蓄積することを確認した。 2)ダイズの根から、ダイズ根粒菌(Bradyrhizobium japonicum 138NR)の増殖阻害活性を示す物質を精製し、機器分析によってこれを4′,7-Dihydroxyisoflavone(デイジーン)と同定した。デイジーンによるバクテロイド増殖阻害はSpdによって抑制された。 3)根粒の窒素固定活性の硝酸による阻害にはSpd分解産物のH_2O_2が関与していることが示唆された. 4)バクテロイドはH_2O_2に対する感受性が高かいこと、バクテロイドの増殖のSpdによる阻害はカタラーゼの添加により抑制されること、多くのダイズ根粒菌でのH_2O_2感受性とSpd感受性の間に正の相関が見られること、Spd耐性変異株がH_2O_2耐性を示すことなどから、Spdの作用がSpd酸化により生成するH_2O_2によることが示唆された。 5)ダイズ幼植物根からアミンオキシダーゼを精製した。本酵素は他のマメ科植物と同じI型のアミンオキシダーゼに分類された。バクテロイド細胞表層に存在するアミンオキシダーゼの作用でSpdから生成したH_2O_2が、バクテロイドの増殖阻害を引き起こすと考えられた。 6)根粒破砕液中にはバクテロイドの増殖阻害を引き起こすのに十分量のアミンオキシダーゼとポリアミンが存在するにもかかわらず、根粒破砕液中のバクテロイド生菌数に変化がなかった。このことから、ダイズ-根粒菌の共生系ではアミンオキシダーゼの作用を調節する何らかの機構がはたらき、宿主細胞内での根粒菌密度を制御していると考えられた。
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