研究概要 |
ホルムアルデヒドジスムターゼ(FDM)は,ホルムアルデヒド耐性細菌,Pseudomonas putida F61株に見いだされた酵素で,NAD(H)が酵素と非共有結合的に強く結合したままで酸化還元反応に関与するユニークな性質を有する.本研究では,酵素とNAD(H)との結合に関与するアミノ酸残基あるいは結合ドメインを明らかにすることを目的としている. 1.FDM遺伝子のクローニング:P.putida F61のゲノムDNAよりクローニングして得たFDM遺伝子は大腸菌で高発現し,精製酵素の比活性,分子量,NAD(H)および亜鉛の含有量,触媒特性などの性質は親株のものと一致した。 2.FDM遺伝子の構造解析:クローニングされた遺伝子のORFは12,000塩基対からなり,推定アミノ酸配列からサブユニットの分子量は42,848であった。N-末端の上流にはプロモーター部分が存在し,大腸菌内でも機能することが分かった。 3.酵素の構造解析:本酵素の2個の亜鉛結合ドメインはウマ肝臓アルコールデヒドロゲナーゼとの類似性が高く,一方は触媒活性に,他方はタンパク質の構造維持に関与していることが推定された。NAD(H)の結合モチーフとして-GXGXXG-が見いだされ,これを中心とする疎水性アミノ酸残基およびアスパラギン酸残基が保存されていた.この結果に基づき,NAD(H)結合モチーフのアミノ酸残基の部位特異的変異の条件を決定した。 4.アルデヒド処理への利用:FDM遺伝子は大腸菌内でも高発現した.この組換え体を用いて,各種アルデヒドの分解処理を検討したところ,菌体の酵素含量は高いにもかかわらず,ホルムアルデヒドに対しては親株に比べての分解活性は低く,親株にはアルデヒド耐性にとって重要な因子のあるという興味ある現象を見いだした.
|