研究概要 |
油糧植物の脂肪合成を制御している遺伝子の構造を明らかにすることを目的として,アシル-CoA合成酵素の精製とその遺伝子のスクリーニングを並列して行った。登熟期サフラワー種子小胞体膜から本酵素を可溶化して,イオン交換クロマトグラフィー,アフィニティークロマトグラフィーを用いて約400倍にまで精製した。分子量76,000のこの酵素はアミノ末端がブロックされていることがわかった。小胞体膜から可溶化することによって,基質である脂肪酸の不飽和度に対する特異性が変化した。このことは,タンパク質構造の変化が直接脂肪酸の疎水性側鎖の認識に影響を与えたことを示している。また活性の低下した精製酵素は,リン脂質リポソームの添加によって著しくその活性を回復した。リン脂質は,酵素タンパク質の構造と活性の維持に必須の環境を提供していると考えられる。一方,登熟期のサフラワー種子ならびにイネ種子に由来するcDNAライブラリーをテンプレートにして,動物と微生物で高度に保存されている領域のオリゴヌクレオチドをプライマーとしPCRを行った。その結果,イネでは1,150bp,サフラワーでは1,230bpの増幅配列が得られた。これらの塩基配列中には,ヒト,ラット,酵母,大腸菌とも共通の配列がいくつか観測され,これら塩基配列に相当するアミノ酸配列が,アシル-CoA合成酵素の機能発現に重要な役割を担っていることが示唆された。また,ホタルルシフェラーゼのアミノ酸配列ともホモロジーの高い領域が存在し,アシル-CoA合成酵素がルシフェラーゼと進化的に同一起源であることがわかった。今後はさらに研究を進め,本酵素の核遺伝子の構造を明らかにするとともに,油糧種子における脂肪合成系の遺伝子発現調節機構の全貌を明らかにしてゆきたい。
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