研究概要 |
申請者は、細菌における環境応答とその情報伝達の分子機構解明と応用を主研究テーマに進めてきた。その間、大腸菌において、新たに、2-component systemという一群の環境応答調節遺伝子に属する、evgS(センサー),evgA(DNA結合性、転写調節因子)遺伝子がペア-で発見された(Gene,140巻、1994年)。その後、その分子機構の詳細な研究がなされた結果、これは、抗生物質等の薬剤排出ポンプの遺伝子発現に関与していることが明らかにされた(J. Gen. Appl. Microbiol in press)。 大腸菌等の微生物において、使用される薬剤に生物が適応化進化して、薬剤抵抗性株の出現がおこる。この薬剤抵抗性株の出現は現代人類社会に対する、生物の挑戦で、21世紀における人類の存亡にも関る問題である。それにもかかわらず、現在、我々はその救済方法を見いだしていない。 EvgS,EvgAを介する情報伝達を研究している過程で、大腸菌が薬剤に曝されたとき、大腸菌は生存すべく、それらの薬剤を排出するために、EvgS,EvgAを介して、薬剤排出ポンプの遺伝子(emrK,emrY遺伝子も申請者等により発見、登録番号、D78168)の発現を誘導することが判明した。それと同時に、驚くべきことに、薬剤抵抗性株が高頻度で出現した。これらの成果は薬剤抵抗性株がどのような情報伝達経路で誘導変異されるかを示したもので、世界ではじめて、明らかにされたものである。申請者が明らかにした、EvgS,EvgAを介する情報伝達を介する薬剤抵抗性出現機構は生物の適応進化の分子機構のよいモデルと考えられる。また、本機構の詳細な解明は、環境に調和した新しい薬剤開発の重要な基礎研究と位置ずけられるだけでなくして、環境に適応して、変異出現する新しい遺伝子の創製を意味する進化工学への道を開く研究と理解される。
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