研究概要 |
ビタミンEの同族体の中で最も生理活性の高いα-トコフェロールについて,その立体異性体の生体内識別について検討した。最初に、平成6年度においては,ラットに長期間経口投与した時の各種臓器への分泌と短期間での動態を調べるために,尾静脈から注入した時の各臓器中でのα-トコフェロール立体異性体の濃度を測定した。α-トコフェロールの立体異性体のうち、4つの2S体(SSS,SRS,SRR,SSR)は短時間での肝臓を除き,全ての臓器で極めて低濃度であり、2R体で80〜90%を占めた。しかし、短時間(24時間までの)の肝臓では2R体に比べ,2S体の濃度が極めて高かった。そこで、肝臓でα-トコフェロールに立体異性体の識別が行なわれているものとを推定されたため,平成7年度では,α-トコフェロール立体異性体の識別が,小腸での消化・吸収時に行われるか否かについて,リュバカニュレーションとCaCo-2モデル細胞系で検討した。その結果、この2方法共に小腸での吸収時及びリンパ液への分泌時とは立体異性体の識別が全く起きていないことが明らかになった。それは、リンパ液中及びCaCo-2細胞分泌液中の2R/2S体比がほぼ1:1であったからである。これらの結果をふまえると,現在予備的に検討を行っている肝臓中に存在するα-トコフェロール結合タンパク質が,α-トコフェロール立体異性体の識別に大きく関与しているものと推定される。この結合タンパク質は既に分泌精製されているが,東大の新井氏との共同研究により,α-トコフェロール立体異性体の中で,天然に存在するRRR-αトコフェロールと最も親和性が高い。このことは,α-トコフェロール立体異性体の識別に肝臓中のこの結合タンパク質が関与し,VLPL分泌時に識別が起こるものと推定される。
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