研究概要 |
ラット空回腸に部分切除手術(resection,以下Rと略記)または位置置換手術(transposition,以下Tと略記)を施し、R,T両群における術後の残存腸管の機能および形態変化の差異を調べた。十二指腸、空腸、回腸重量(g/cm)のいずれにもT>Rの傾向がみられ(絨毛伸長)、膵肥大もあった。しかしRNA/タンパク比に両群間で有意な差はなく、刷子縁膜酵素の比活性、グルコースやタウロコール酸の取り込み能にも差はみられなかった。一方、術後の早い時期(2,5days)の初期応答遺伝子やIGF-1遺伝子の動きを探るため、小腸粘膜からpoly(A)^+RNAを調製しNorthern blot分析を行なった。その結果c-mycやIGF-1遺伝子の小腸における発現はほとんどみられず、わずかに発現のみられたc-fosやODC遺伝子でもβ-actin遺伝子との対比から小腸部位間に差異のないことが確かめられた。次に機能的には回腸に局在することが知られているNa^+依存性胆汁酸輸送系の遺伝子発現について検討したところ、空回腸における位置置換や部分切除手術の違い、あるいは術後経過時間の長短(5,80日目)さらには過形成の程度の如何にもかかわらず、Na^+/胆汁酸共輸送担体遺伝子の存在は回腸由来の小腸部位にのみ見い出された。またアフリカツメガエル卵母細胞を用いた輸送担体発現実験でも、回腸由来のpoly(A)^+RNAを注入した場合にのみNa^+依存性胆汁酸吸収活性の顕著な増大が認められた。しかし、空腸部位へ置換された回腸粘膜の絨毛や固有層が上述のような著しい過形成をうけるためには、腸腔粘膜からの刺激(例えば、経腸栄養)を考慮する必要があろう。
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