研究概要 |
ラットに発がん性ヘテロ環アミノ化合物を与えると,肝臓に前がん病変のマーカー酵素である胎盤型グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST-P)の発現を経て,肝がんを誘発することが知られている。本研究ではラット初代培養肝細胞を無血清培地でPrimariaディッシュを用いてスフェロイド培養し,化学発がん過程におけるメラノイジン(MEL)添加の抑制効果について調べた。MELはグルコースとグリシンの非透析性画分より調製した。発がん性物質にはMeIQx、Trp-P-2を用いた。対照群をMEL無添加群とし、各濃度のMELを添加した群についてMELの化学発がん抑制作用を検討した。5日間の培養後、肝細胞のアルカリフォスファターゼ活性を測定したところ著しい変動は認められず、肝機能は維持されていると推察された。その肝細胞を用い、MeIQxによるGST-PmRNAの発現誘導がスフェロイド培養細胞で認められるかについて、抗GST-P抗体を用いたELISAによってGST-Pタンパク質の検出を行った。その結果、10nM〜1μMのMeIQx添加で対照群と比較し、有意にGST-Pタンパク質の発現が上昇した。そこで5日間の培養細胞から全RNAを抽出し、GST-PのcDNAをプローブとしてノーザンプロット分析を行った。その結果、10nM添加のMeIQxおよび7.8nM添加のTrp-P-2群のGST-P mRNAの発現はそれぞれ無添加群の4.1、9.2倍に増加した。これらの群に0.1%あるいは0.01%MELを発がん性物質と同時に添加することにより発がん性物質無添加群とほぼ同レベルまで抑制された。本研究の結果からMELがMeIQx、Trp-P-2によるGST-P mRNAの発現誘導をほぼ完全に抑制することが明らかとなった。これはヘテロ環アミノ化合物がMELに吸着されること、中間代謝活性化体であるヒドロキシルアミン体がMELとの反応により不活性化されるためであると推察される。
|